人事評価を公開するメリット・デメリットとは?法的義務や事例を解説

人事評価制度を運用する中で、評価の基準や結果を社員に対してどこまで公開するべきか悩んでいる方は多いのではないでしょうか。従来は評価内容を非公開にする企業も多く見られましたが、近年は評価の透明性を高めるオープン化の動きが進んでいます。

 

この記事では、人事評価を公開するメリットとデメリットから、従業員からの開示請求に対する法的な義務、実際に評価制度の透明化・基準の明確化に成功した企業事例までを詳しく解説します。読み終わると、自社に最適な人事評価の公開範囲を決定し、社員の納得感を引き出すための具体的な検討が始められるようになるでしょう。

 

人事評価の公開(オープン化)とは?開示レベルと目的

人事評価のオープン化とは、社員の目標や評価基準、結果などを社内に可視化する取り組みです。従来の密室的な評価から脱却し、誰がどのような基準で評価されるのかを明確にすることで、公正な組織風土を醸成する狙いがあります。

評価制度の透明性が求められる背景と目的

人事評価を公開する大きな目的は、社員と会社の間の信頼関係を構築し、人財の育成につなげることです。評価のプロセスが不透明なままだと、社員は自分の評価が適切に行われているのか不安を抱いてしまうでしょう。

 

働き方が多様化する現代において、社員が自身のキャリアパスやスキルアップの方向性を明確に知りたいと考えるケースも増えてきています。そのため、企業側がどのような基準で評価を行い、どのような成果を求めているのかを公開し、社員の不安を払拭する必要があると考えられます。

どこまで公開するべきかを示す段階的な開示レベル

人事評価を公開するといっても、その範囲は企業によって大きく異なります。結果だけを伝えるケースから、全社員の評価シートを共有するケースまで、いくつかの段階に分けることができるでしょう。

 

自社の組織風土や評価者のスキルに合わせて、適切な公開レベルを選択することが重要です。

 

公開のレベル具体的な公開内容と運用の特徴
レベル1評価基準や結果を一切公開せず、賞与や
昇給の結果のみで伝える状態です。
レベル2評価の最終結果(ランクなど)のみを本人に
伝えますが、詳細な理由は開示しません。
レベル3評価結果とその理由を口頭でフィードバックします
が、評価シート自体は見せません。
レベル4本人の評価シートを実際に見せながら、
結果と根拠を詳細にフィードバックします。
レベル5本人の同意を得たうえで、全社員の評価目標や
結果を社内ネットワークなどで共有します。

 

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報酬テーブルを公開するという選択肢

公開の議論は評価結果に集中しがちですが、実務上とりわけ効果が大きいのが報酬テーブルの公開です。報酬テーブルとは、役職ごとの給与の下限値と上限値、そしてその間を刻む号俸を一覧にしたものを指します。

 

これを社員に開示する目的は、次の3点に整理できます。

 

公開の目的社員が認識できるようになること
現在地の認識自分が今どの位置に
いるのかが分かる
上限値と下限値の認識この役職ではどこまで報酬が
上がるのか、下がるのかが分かる
変動の仕組みの認識どうすれば報酬が上がるのか、
何をすると下がるのかが分かる

 

各役職での報酬上限や、会社全体での最上限額は、会社から従業員へのメッセージそのものです。「この会社で頑張ればここまで到達できる」という到達点が見えることで、社員は自身のキャリアビジョンと会社の制度が適合しているかを判断できるようになります。

 

なお、公開するのは他者の個別の給与額ではなく、あくまで制度としてのテーブルです。個人の報酬額を相互に見えるようにする必要はないため、心理的な抵抗が生まれにくく、レベル1やレベル2の段階にある企業でも着手しやすい打ち手と言えます。

 

実際に公開する報酬テーブルは、次のような形式になります。金額はあくまで例示です。

 

役職基本給の下限基本給の上限1号俸あたりの刻み幅
一般220,000円280,000円1,000円
主任270,000円340,000円1,500円
課長330,000円450,000円2,000円

 

この例では、上位役職の下限が下位役職の上限を下回る重複型を採用しています。重複させると昇格時の報酬決定を柔軟に行える一方、重複させない設計にすると昇格時の昇給幅が大きくなり、昇格そのものが動機づけとして機能します。

どちらを選ぶかも、会社から社員へのメッセージになります。公開する前に、自社がどちらの考え方を取るのかを整理しておくことをおすすめします。

 

人事評価を公開するメリット

評価のプロセスや基準を透明化することは、単なる情報開示にとどまらず、組織全体の活力を底上げする起爆剤となります。社員が自らの立ち位置を客観的に把握し、会社と同一の方向を向いて成長していけるポジティブな労働環境の構築に大きく貢献するのです。

 

メリットの観点もたらされる具体的な効果
社員の心理面評価に対する不満や猜疑心が減り、
会社への信頼感が高まります。
行動の改善次に何をすべきかが明確になり、自律的な
学習やスキルアップが促進されます。
組織のベクトル企業が求める行動指針が浸透し、
チーム全体の目標達成意欲が統一されます。

 

評価への納得感が高まりモチベーションが向上する

評価基準や評価に至った根拠が明確に示されることで、社員の納得感が大きく向上します。評価の理由がわからないままだと、結果の良し悪しにかかわらずモチベーションを維持しにくくなります。

 

評価シートを公開しながら丁寧なフィードバックを行うことで、社員は自分の現状を客観的に把握できるようになるでしょう。自分の強みや改善すべき課題が明確になるため、次の目標に向かって前向きに事に当たる意欲が引き出されます。

会社が求める人物像や目標が明確に伝わる

評価基準を公開することは、会社が社員に対してどのような行動や成果を期待しているのかを伝えるメッセージとして機能します。評価項目がオープンになっていれば、社員は会社が重視する価値観や成果イメージを日常業務の中で共有できるようになります。

 

これにより、経営陣が描くビジョンと社員の行動が一致しやすくなり、組織全体の生産性向上につながることが期待できます。

昇格の要件を示すことでキャリアの見通しが立つ

評価基準とあわせて公開したいのが、役職が上がるための昇格要件です。何を満たせば昇格できるのかが示されていないと、社員にとって昇進は上層部の判断次第という不透明なものに映ってしまいます。

 

昇格要件を設計する際は、次の5つの観点で整理すると抜け漏れを防げます。

 

観点確認する内容
成果の観点求められる役割を全うし、
チームや組織へ貢献できているか
人間性の観点その役職に求める人財要件、
とりわけ人望を満たしているか
成長性の観点チームや組織の将来像を
どのように描いているか
公平性の観点組織全体で見たときの
客観性をどう担保するか
難易度の観点どこまで満たせば昇格とするか
(すべて必須か、一部でよいか)

 

公開の実務では、これらを「必要条件」と「十分条件」に分けて示すと運用しやすくなります。必要条件は昇格に絶対に欠かせない基準、十分条件は候補者の中から最終的に適性を見極めるための基準です。

 

成果や号俸といった数値で示せる部分を必要条件として公開し、人望や将来像といった見極めが必要な部分を十分条件として位置づければ、透明性を高めながら任用の裁量も確保できます。

人事評価を公開するデメリットと注意点

透明性を高めることは多くの利点がある反面、運用体制が整っていない状態での安易な公開は組織崩壊のリスクも孕んでいます。制度の矛盾や管理職のマネジメント能力がシビアに問われることになるため、公開に向けた事前の地ならしや制度設計の精査が欠かせません。

 

想定されるリスクリスクを軽減するための対策
評価への不満増大評価者向けの研修を定期的に実施し、
フィードバックのスキルを向上させます。
制度への不信感評価結果と給与・賞与の連動性を
ルール化し、社員に事前に説明しておきます。
人間関係の悪化評価の根拠を主観ではなく、客観的な事実や
データに基づいて伝えるようにします。

 

 

評価者のスキル不足が露呈して不信感につながる

評価の内容を詳細に公開すると、評価者である管理職の力量が社員に直接伝わることになります。もし評価基準が曖昧なまま運用されていたり、評価者によって判断基準にばらつきがあったりすると、その不公平さが社員に見透かされてしまうでしょう。

 

面談の場で論理的な説明ができないと、社員は評価制度そのものに不信感を抱くようになります。評価を公開する前には、評価者に対する十分なトレーニングを実施し、客観的で公平な評価ができる体制を整えることが大切です。

評価結果と実際の処遇が連動していないと不満が生じる

公開された評価結果と、実際の給与や昇進といった処遇が連動していない場合、社員の不満は大きくなります。たとえば高い評価を得たのに給与に反映されなければ、制度そのものへの落胆につながるでしょう。

 

評価をオープンにするのであれば、評価制度と報酬制度の連動性を高めておくことが望まれます。具体的には、評価点が評価ランクに変換され、そのランクが号俸の上下につながるという経路を、あらかじめ数値で定義しておく形です。

 

どの評価ランクから昇給とし、どのランクから降給とするのか。ランクごとの変動幅をどの程度にするのか。この設計が曖昧なまま結果だけを公開すると、かえって「評価と給与が結びついていない」という不信を可視化してしまうことになります。

 

制度設計の段階で、評価がどのように処遇に結びつくのかを論理的に説明できる状態にしておくことが求められるでしょう。

 

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【法的観点】人事評価の開示は企業の義務なのか

社員から自身の評価結果や理由の開示を求められた際、「どこまで見せるべきか」は法的な知識を持ったうえで慎重に判断する必要があります。コンプライアンスを遵守しつつ組織の秩序を守るため、企業が取るべきスタンスと法律上の解釈を整理しておきましょう。

 

法的な観点と対応実務における考え方と方針
開示の原則人事評価は個人情報であり、原則としては
本人からの開示請求に応じる姿勢が求められます。
例外的な拒否評価業務の適正な実施に著しい支障が出る場合は、
法的に開示を拒否できる余地があります。
トラブル予防策開示する範囲と非開示とする範囲のルールを
就業規則などで明文化し、事前に周知します。

 

個人情報保護法における人事評価の扱い

人事評価の情報は、個人情報保護法における個人情報に該当します。原則として、従業員本人が自己の個人情報の開示を求めた場合、企業はこれに応じる義務があるとされています。

 

しかし、人事評価の開示については常に無条件で公開しなければならないわけではありません。個人情報保護法では、事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合には、開示を拒否できる例外規定が設けられているのです。

従業員からの開示請求を拒否できるケースと適切な対応

厚生労働省の見解では、人事評価や選考に関する情報は開示することで評価業務の適正な実施に支障をきたすおそれがあるため、例外的に非開示とできるケースがあるとされています。

 

評価の点数やランクは開示できても、評価者が書き込んだ生々しいコメントや、他者との相対評価の過程まで全てを開示すると、職場内の人間関係が悪化し、今後の円滑な評価業務が困難になるおそれがあるでしょう。このような場合は、適法に開示を拒否できる可能性が高くなります。

 

ただし、単に拒否するだけでなく、なぜ開示できないのかという理由を丁寧に説明し、労働組合や社員に対して事前に開示・非開示のルールを周知しておくことがトラブルを防ぐ鍵となります。

 

明文化の際は、項目ごとに取り扱いを一覧にしておくと、請求のたびに判断する必要がなくなります。

 

項目取り扱い
評価項目と評価基準全社に公開
本人の評価点・評価ランク本人に開示
評価者のコメント欄面談で口頭により内容を
説明(原文は非開示)
他者との相対比較の過程非開示
評価会議での発言内容非開示

 

この一覧を就業規則や社内規程に紐づけて周知しておけば、開示請求を受けた際も担当者の判断に依存せず、一貫した対応が可能になります。

 

人事評価の公開を成功させた企業事例

実際に評価のオープン化を導入し、業績や組織力の向上につなげている企業の取り組みは、自社に制度を導入する際の強力なヒントになります。ここでは独自の工夫で透明性を高め、社員の自律的な成長と納得感の醸成を見事に実現した先進的な成功事例を紹介します。

各役割に即した目標設定でモチベーション向上

株式会社古田土経営では、以前は全部署に売上目標が設定されており、「売上が全て」という風潮がありました。この課題に対し、各部署や個人の役割に応じた適切な目標設定へと評価基準を改善しています。

 

結果として、従業員が自身の役割と評価の繋がりを理解しやすくなり、働くモチベーションの向上へと繋がりました。売上のみに依存しない評価基準を社内で明確にすることで、より多くの従業員が納得して業務に取り組める環境を構築した事例と言えます。

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評価の矛盾を解消し一貫性のある制度へ刷新

三和ペイント株式会社は、評価制度の根幹を見直し、成果評価を中心とした手法へと移行しました。従来感じていた評価の矛盾を減らすため、成果に至るまでの重要なプロセスも定量的な目標として組み込んでいます。

 

これにより、行動プロセスと最終的な成果が正しく評価に連動する仕組みが整いました。評価される側にとっても、どのようなプロセスが評価に直結するのかが明確になるため、公平性や透明性が高まる良いヒントとなります。

【関連記事】三和ペイント株式会社|お客様の声 | 循環型経営のOGS

評価基準の共有による組織への不信感払拭

株式会社オール・ワンの事例では、評価者の個人的な感覚に頼った不透明な評価をなくす取り組みが行われました。明確な基準が存在しない状態では、スタッフが不信感や不満を抱く原因に繋がります。

この課題に向き合い、曖昧さを排除した明確な基準を設けることで組織運営を改善しています。会社が求める目標や評価のモノサシを組織全体へ共有していく姿勢は、メンバー全員が同一の方向を目指して成長するための土台構築に役立つはずです。

【関連記事】株式会社オール・ワン – OGSコンサルティング株式会社

まとめ

この記事の要点をまとめます。

・人事評価の公開は、社員の納得感とモチベーションを高める手段として有効とされています。
・評価結果だけでなく、報酬テーブルや昇格要件の公開も選択肢になります。
・一方で評価者のスキル不足や処遇との不一致が露呈するリスクもあります。
・法律上は開示請求を拒否できるケースもありますが事前のルール化が重要です。

自社に適した公開レベルを慎重に検討し、社員との信頼関係を深める人事評価制度の構築を目指して前進していきましょう。

人事評価の公開に関するよくある質問

最後に、人事評価の公開についてよく寄せられる質問について回答します。

Q1.他の社員の評価結果まで公開する必要はありますか?

必須ではありません。公開の目的は、社員が自分の現在地と進むべき方向を把握できるようにすることです。個人の評価結果を相互に見えるようにしなくても、評価基準・報酬テーブル・昇格要件という制度そのものを公開すれば、目的の大部分は達成できます。

Q2.どのレベルから公開を始めるのが現実的ですか?

評価者の説明スキルが十分でない段階でいきなり評価シートを開示すると、面談の場が紛糾しやすくなります。まずは評価基準と報酬テーブルという制度面の公開から始め、評価者研修を経てから個別の評価シートの開示へ進むという順序が、無理が少ない進め方です。

Q3.公開したあとに評価基準を変更しても問題ありませんか?

問題ありません。評価項目や基準は事業戦略に連動して変わるものであり、固定すべきものではないためです。ただし、変更のタイミングは期の切り替え時とし、変更の理由と内容を事前に周知することが前提となります。期の途中で基準が変わると、公開したこと自体が不信の材料になりかねません。

Q4.報酬テーブルを公開すると、上限を見て社員が離職しませんか?

その懸念は生じ得ます。ただし、非公開のままでも社員は転職市場の水準と自社の待遇を比較しています。公開によって早期に認識のずれが表面化すれば、昇格によるレンジの変化を示す、上限そのものを見直すといった対話の機会に転換できます。上限額は会社からのメッセージであるという前提で設計しておくことが重要です。

Q5.評価コメントの開示を求められた場合はどうすればよいですか?

評価点やランクは開示しつつ、評価者の記述コメントや相対評価の過程については非開示とする運用が一般的です。開示・非開示の範囲をあらかじめルール化して周知しておけば、請求のたびに個別判断する必要がなくなり、トラブルを防ぎやすくなります。判断に迷う場合は、社会保険労務士や弁護士に確認することをおすすめします。

 



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