新規事業の人事評価はどう作る?フェーズ別の評価指標と失敗しないポイント
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新規事業の人事評価は、結果だけでなくプロセスや挑戦する姿勢を評価する専用の指標設計が必要です。既存事業の評価基準をそのまま適用すると、売上や利益といった短期的な結果が出ない新規事業担当者のモチベーションが低下するためです。
本記事では、既存事業の評価が通用しない理由から、フェーズ別の評価基準の作り方、担当者を評価する際の運用ポイントを通して整理します。
この記事の要約
- 新規事業の評価は既存の売上偏重ではなく、プロセスと挑戦する姿勢を重視する指標設計が必要
- 立ち上げ期は行動量や顧客ヒアリング数など、仮説検証に向けた具体的なアクションを評価する
- 仮説検証・PMF期は、顧客課題の発見やプロダクトの改善率など、事業の方向性を定めるプロセスを評価する
- グロース期に入って初めて、売上や顧客獲得数などの定量的な業績評価の比重を高める
- 失敗を許容して学習を奨励する加点方式の評価制度を導入し、担当者の意欲を維持する
新規事業における人事評価制度の重要性
新規事業の成功には、既存事業とは異なる独自の人事評価制度の構築が求められます。既存の評価基準が通用しない理由と、評価エラーがもたらす影響を整理します。
| 評価の観点 | 新規事業における評価の要点 |
| 既存基準の不適合 | 短期的な売上や利益ではなく、 プロセスを評価する基準が必要 |
| モチベーション低下 | 挑戦を評価しないと 担当者の意欲が削がれる |
既存事業の評価基準が通用しない理由
新規事業と既存事業では、ビジネスの前提となる不確実性や収益化までの時間軸が異なるため、既存の評価基準は通用しにくくなります。既存事業はすでにビジネスモデルが確立しており、売上や利益率といった結果の指標で評価する傾向があります。
一方で新規事業は、ゼロから顧客の課題を探り、試行錯誤を繰り返すフェーズであり、短期間で目に見える利益を生み出すことは困難です。結果だけを求める既存の基準を当てはめると、新規事業の実態と評価が乖離してしまいます。
評価エラーが引き起こす担当者のモチベーション低下
不適切な評価基準を適用すると、新規事業担当者のモチベーション低下につながりやすくなります。売上が立たない立ち上げ期において、売上金額だけで評価されてしまうと、どれだけ行動しても評価が上がらない状態に陥るケースも珍しくありません。
ここで押さえておきたいのが、本人がコントロールできない要素を評価項目に含めないという原則です。市況や競合の動きといった「定数」で点数が上下する設計では、どれだけ正しく行動しても評価は安定しません。本人の努力で動かせる「変数」に評価対象を絞ることが、納得感の前提になります。
結果として担当者は挑戦を避け、リスクの少ない無難な選択を取るようになり、新規事業の推進力が失われます。担当者の熱量を保つためには、行動や試行錯誤の過程を正当に評価する仕組みが必要です。
新規事業の人事評価制度の作り方
新規事業の人事評価制度は、思いつきで指標を並べるのではなく、評価対象の整理から目標設定まで手順を踏んで設計する必要があります。設計の順序を誤ると、指標同士が噛み合わず運用段階で形骸化するためです。
ここでは、制度設計の土台となる4つの基本ステップを整理します。
| 設計ステップ | 押さえるべきポイント |
| 評価対象・役割の整理 | 誰をどの役割・等級で評価するのかを、 事業構造に沿って定義する |
| 評価指標の決定 | 経営戦略と事業フェーズから逆算して、 重視する指標を選ぶ |
| 評価基準・ウェイトの設定 | 指標ごとの達成基準と、 評価全体に占める比重を明確にする |
| 目標設定 | フェーズに合わせて、 OKRなどで挑戦的な目標を設定する |
新規事業の評価指標づくりは、目標をどう分解するかが出発点になります。支援実績1,600社超の組織開発コンサルタントであり、YouTubeチャンネル「深石 圭の人事評価大学」を運営する弊社代表・深石が、「目標設定で売上が変わる!部下を勝たせるKPIの創り方/勝ち癖・自己効力感をデザインする術」にて解説しております。ぜひご視聴ください!
評価対象と等級・役割を整理する
評価制度の設計は、誰をどの役割・等級で評価するのかを整理することから始めます。新規事業は少人数で複数の役割を兼務するケースが多く、既存事業の等級定義をそのまま流用すると、実態と評価がずれてしまうためです。
事業責任者、企画担当、開発担当といった役割ごとに、求められる行動や責任範囲を洗い出し、期待役割を言語化します。このとき、責任の重さと権限の広さはセットで設計しておきたいところです。「事業の成否に責任を持て、ただし予算執行は都度承認を得よ」という状態では、担当者は動けません。
まず「誰に何を期待するのか」という土台を明確にすることが、後の指標設計をぶれさせないための出発点となります。
経営戦略・事業フェーズから評価指標を決める
評価指標は、経営戦略と事業フェーズから逆算して決めることが重要です。新規事業の評価は、全社戦略の中でその事業に何を期待するのかと連動していなければ、現場の行動が経営の意図とずれてしまうためです。
逆算の手順はシンプルです。事業として達成したい最終目標であるKGIを置き、それを実現するために外せない要因であるKSFを特定し、KSFを日々の活動量に翻訳したものがKPIとなります。このKPIこそが、評価指標の中核になります。
「この事業でいつまでに何を実現したいのか」という戦略目標を起点に、現在のフェーズで重視すべき行動や成果を指標へ落とし込みます。戦略と評価指標を接続することで、担当者の日々の行動を事業のゴールに向かって一貫させやすくなります。
評価基準とウェイト(比重)を設定する
指標を選んだら、それぞれの達成基準と、評価全体に占めるウェイト(比重)を設定します。どの水準を満たせば評価されるのか、評価全体の中でどれだけ重視されるのかが曖昧だと、評価者によって判断がぶれてしまうためです。
立ち上げ期はプロセス指標の比重を高く、グロース期は業績指標の比重を高めるなど、フェーズに応じてウェイトを調整します。配分のイメージは次のとおりです。数値はあくまで例示であり、事業特性に応じて調整してください。
| 事業フェーズ | プロセス指標 | 業績指標 |
| 立ち上げ(ゼロイチ)期 | 80% | 20% |
| 仮説検証・PMF期 | 60% | 40% |
| グロース期 | 30% | 70% |
あわせて注意したいのが、指標の数です。網羅性を求めて項目を増やすと、担当者が何を優先すべきか判断できなくなります。1人あたりの評価項目は5つ程度を目安とし、それを超える場合は統合や削除を検討してください。基準と比重を明確にすることで、事業の段階に合った納得感のある評価が可能になります。
フェーズに合わせた目標設定(OKRの活用)
評価指標と連動させる形で、フェーズに合わせた目標設定を行います。OKRのように挑戦的な目標を掲げる手法は、不確実性が高くゴールが変わりやすい新規事業と相性の良い方法です。
売上目標を立てにくい立ち上げ期でも、「想定顧客に〇件ヒアリングし課題を特定する」といった行動ベースの目標を設定すれば、進捗を可視化しやすくなります。役割別に落とし込むと、次のようなイメージになります。件数はあくまで例示です。
| 役割 | 立ち上げ期における四半期の行動目標例 |
| 事業責任者 | 想定顧客20社へのヒアリングを完了し、 課題仮説を3つに絞り込む |
| 企画担当 | 競合5社の分析レポートを作成し、 差別化の論点を提示する |
| 開発担当 | 試作品を1つ以上リリースし、 想定ユーザーの反応を記録する |
ただし、未達を一律に減点する運用は挑戦意欲を削ぐため、目標の難易度や取り組みのプロセスも加味して評価へ反映させることが大切です。
本章で触れた目標管理の考え方について、弊社代表・深石が、不確実性の高い環境下で制度を機能させる要点を「MBOは正式名称ではない?!/VUCA時代にMBO(目標管理制度)を機能させるポイントを解説!」でご紹介しております。
【関連記事】人事評価制度の作り方を5ステップで解説!社員が納得する制度設計とは? – OGSコンサルティング株式会社
新規事業フェーズ別の人事評価基準
新規事業は、事業の進捗状況に応じて求められる成果が変わるため、フェーズごとに評価基準を変化させる必要があります。立ち上げ期、仮説検証期、グロース期の3つの段階に分けて具体的な指標を整理します。
| 事業フェーズ | 評価指標の要点 |
| 立ち上げ(ゼロイチ)期 | 顧客ヒアリング数や 仮説構築の行動量を評価する |
| 仮説検証・PMF期 | プロダクトの改善率や 初期顧客の獲得プロセスを評価する |
| グロース期 | 売上成長率や顧客獲得数など、 定量的な結果を評価する |
立ち上げ(ゼロイチ)期の評価指標
立ち上げ期は、事業のアイデアを形にし、顧客の課題を発見するための圧倒的な行動量が評価の対象となります。この段階では製品やサービスが存在しないため、売上目標はそぐわない傾向があります。
具体的な指標としては、顧客へのヒアリング件数、業界リサーチの深さ、仮説の立案数が挙げられます。失敗を恐れずに行動を起こし、事業のタネを見つけるためのプロセスを評価に組み込むアプローチです。
仮説検証・PMF期の評価指標
事業の方向性を検証する仮説検証・PMF期では、顧客の反応をもとに製品を改善していくプロセスを評価します。試作品(MVP)を市場に投入し、想定した課題が本当に解決できるかを確かめる段階です。
ここでは、ユーザーからのフィードバック獲得数、製品の改善サイクルを回した回数、初期顧客からの継続利用率などが指標となります。仮説が間違っていた場合に、素早く方針転換(ピボット)を判断できたかどうかも、前向きな評価対象として扱うことが一般的です。
グロース期の評価指標
事業モデルが確立し、規模を拡大していくグロース期に入って初めて、売上や利益を軸とした定量的な評価の比重を高めます。事業が軌道に乗り、投資を回収するフェーズに移行するためです。
この段階では、月次の売上成長率、新規顧客の獲得コスト(CAC)、顧客生涯価値(LTV)といった既存事業に近い業績指標を導入します。ただし、既存事業と完全に同じ基準にするのではなく、市場シェアの拡大スピードなど成長性に重きを置いた目標設定が必要です。
新規事業担当者を評価する際のポイント
新規事業の特性に合わせた評価制度を運用するためには、指標の設計だけでなく、評価の運用方法にも工夫が求められます。担当者を適正に評価し、挑戦を促すための具体的なポイントを整理します。
| 評価運用の観点 | 評価時のポイント |
| プロセスと行動の重視 | 最終的な結果だけでなく、 仮説検証の過程と行動特性を評価する |
| 失敗の許容と学習 | 失敗から得た学びを可視化し、 次のアクションに繋げた点を加点する |
| 不公平感の防止対策 | 既存事業部門との評価基準の違いを明示し、 社内の納得感を醸成する |
結果だけでなくプロセスと行動特性を評価する
新規事業担当者の評価では、最終的な成否だけでなく、目標に向かうプロセスと行動特性(コンピテンシー)を重視して評価を実施します。結果至上主義の評価では、不確実性の高い新規事業でリスクを取りにくくなります。
目標に対してどのような仮説を立て、どのような手段でアプローチしたかという論理的なプロセスも評価対象に含めることが一般的です。同時に、困難な状況でも諦めずに推進する力や、周囲を巻き込むリーダーシップといった行動特性も併せて評価します。
その際、「主体性がある」といった抽象的な表現のままでは評価者ごとに解釈が割れます。「週次で仮説の検証結果を共有し、次の打ち手を自ら提案している」のように、観察できる行動へ翻訳しておくことが重要です。
失敗を許容し学習と挑戦を評価に組み込む
新規事業においては、失敗をネガティブな要素として減点するのではなく、失敗からの学習を高く評価する加点方式を取り入れます。新規事業の多くは失敗に終わるのが実情であり、失敗を咎める組織風土では新しいアイデアが生まれにくくなります。
仮説が外れた原因を正確に分析し、それを次の施策に活かすことができたのであれば、価値のある失敗として評価します。挑戦した事実そのものを称賛する文化を根付かせることが、事業開発を加速させる原動力となります。
運用面では、行動を振り返る「評価」と、賞与や昇給を決める「査定」の期間を分けておくと効果的です。同じ場で扱うと、失敗の振り返りが処遇交渉にすり替わり、担当者が本音を語らなくなってしまいます。
既存事業部門との評価の不公平感を防ぐ対策を行う
新規事業独自の評価制度を導入する際は、既存事業部門の社員が不公平感を持たないように、評価基準の違いとその理由を社内に周知する対策が必要です。売上がないのに高く評価されている新規事業部門に対し、収益の柱を担う既存部門から不満が出るケースは珍しくありません。
新規事業が将来の会社の存続に欠かせないという経営メッセージを発信し、評価軸が異なるだけで優劣ではないことを丁寧に説明します。どのような成果や行動が処遇に結びつくのかを、可能な範囲で両部門に開示しておくと、憶測による不信感を抑えられます。
社内全体の納得感を高めることが、全社的な協力体制の構築に繋がります。
【関連記事】人事評価制度の作り方とは?社員が納得し成長する仕組みの構築方法を解説 – OGSコンサルティング株式会社
まとめ
新規事業における人事評価制度は、結果だけでなくプロセスと行動特性を重視し、フェーズに合わせて柔軟に基準を変化させる仕組みが必要です。売上偏重の既存基準をそのまま当てはめてしまうと、担当者の挑戦意欲が削がれ、事業の推進力が失われるケースも珍しくありません。
社内に新規事業のノウハウがない状態で、既存事業と折り合いをつけながら独自の評価制度をゼロから構築し、社内の納得感まで醸成するには相応の時間がかかります。
OGSコンサルティングの戦略連動型人事評価制度コンサルティングでは、経営戦略と連動した評価制度の設計から、実運用の自走化までを一貫して支援しています。新規事業と既存事業で評価軸が異なる理由を社内に浸透させ、両部門の納得感を醸成します。
そのうえで、自社のフェーズや組織文化に合わせた評価指標の策定に対応します。担当者が失敗を恐れずに挑戦できる仕組みづくりから、コンサルタントに依存せず自律的に運用できる組織創りまでをサポートします。
新規事業の人事評価に関するよくある質問
新規事業の担当者に売上目標を設定してはいけませんか?
フェーズ次第です。製品がまだ存在しない立ち上げ期に売上目標を置くと、行動しても評価が動かない状態になり、担当者の意欲を削ぎます。一方、事業モデルが確立したグロース期では売上を主軸に据えるのが適切です。売上を「使わない」のではなく、「いつから、どの比重で使うか」を設計する問題だと捉えてください。
評価指標はいくつ設定するのが適切ですか?
1人あたり5項目程度が目安です。新規事業は業務範囲が広く、あれもこれもと指標を足しがちですが、項目が多いほど担当者は優先順位を判断できなくなります。KGIから逆算して事業成否への影響が大きい行動に絞り込み、フェーズが変わるタイミングで入れ替えていく運用が現実的です。
既存事業部門から「不公平だ」と言われた場合はどうすべきですか?
評価軸が違う理由を、経営メッセージとして正面から説明してください。新規事業は将来の収益源を作る役割であり、評価軸の違いは優劣ではなく期待役割の違いである、という位置づけを明示します。基準を非公開にしたまま運用すると、憶測が不満を増幅させるため、可能な範囲での開示が有効です。
事業フェーズが変わったら評価制度も作り直すべきですか?
制度全体を作り直す必要はありませんが、指標とウェイトは見直しておきたいところです。あらかじめ「PMFに到達したら業績指標の比重を上げる」といった移行条件を制度設計の段階で決めておくと、変更のたびに社内調整が発生する事態を防げます。切り替え時期は担当者と事前に合意しておくことが重要です。
新規事業が撤退となった場合、担当者の評価はどうなりますか?
事業の成否と個人の評価は切り分けて判断します。仮説検証を正しい手順で進め、撤退の判断材料を早期に示せたのであれば、それは組織にとって価値のある成果です。撤退=低評価という運用が定着すると、誰も新規事業を担当したがらなくなります。学習と判断の質を評価対象に据えてください。







